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「ようすけとようこ」のぼうけん

小学3年の頃のことだった。
教科書に描かれた絵を参考に、
物語を作るという宿題が出された。

教科書には、男の子と女の子が
小さな島に腰掛けていて、
いかにもな、冒険ルック。

その先には橋がかけてあり、
枝分かれしながら
いくつもの小島に繋がっている。
時にはワニなどの動物がいたり、
恐ろしい底なし沼があったりした。

一番先に、宝箱の置いてある小島がある。
ふたりは、ここを目指すのだ。

つまり、好きなルートを選びながら展開をつくり、
いかにして、最終的に宝物をふたりが得るか。
そういう、想像力を膨らませるための勉強である。

俺はふたりの主人公を
「ようすけ」「ようこ」と名付け、
物語を作っていった。
「ようすけ」は、猪突猛進な性格で
力は強いが、
すぐに突っ走ってしまう。
「ようこ」は、冷静沈着。
「ようすけ」の暴走を止めながら、
彼の怪力をうまく利用して財宝を目指す。

書いているうちに、だんだん楽しくなってくる。
思いもよらない展開も、思いついた。
これを読んだ人は、どう思うだろうと
わくわくしながら、書き進めた。
物語を作ったのは、このときが初めてだった。

物語の顛末は、こうだ。
ふたりは、困難の末
ついに宝島へたどり着く。
しかしなんということだろう。
彼らが足を踏み入れると、宝島は
二人の重さで
ぶくぶくと沈んで行ってしまうのだ。

慌てて島を出るふたり。
宝島は、もう沈んでしまった。

意気消沈する「ようすけ」だったが、
「ようこ」の様子がどうもおかしい。
実は、「ようこ」はあの混乱のなか、
財宝をいくつか手に入れていたのだった。
大喜びする「ようすけ」。
しかし、「ようこ」はそそくさと行ってしまう。
「ようすけ」は、待ってくれと、彼女を追いかける。

よし、やっと終わったぞと
俺は満足してノートを閉じた。


後日、
クラスのホームルームで、
先生が言った。
「この間の宿題で、面白い作品を作った人がいたので
 この場で発表します」

先生は、「面白い作品」を朗読しだした。
主人公は、「ようすけ」と、「ようこ」。
俺の作品だった。

ところどころにもうけた、
コメディチックな場面では、
先生は笑いながら
話を読みすすめた。
クラスメイトも、おおいに笑った。
俺は、体中から熱が吹き出しているのを感じていた。
みんなが、俺の書いたもので笑っている。

「ようこ」が宝物を手に入れ、
物語が結末を迎えると、
拍手が起こった。
俺は顔を真っ赤にして、立ち上がった。
「すごいな。これは面白いぞ」
先生はそう言って、ノートを手渡した。

ホームルームが終わると、
クラスメイトたちが、こぞって俺の机にやってきて、
ノートを開きだした。
「さっきの話をもう一度読みたい」
というのだ。
彼ら彼女らは、俺のノートを取り合って、
へたくそな字で書いてある
「ようすけ」と「ようこ」の物語を読みだした。

その状況は、何日か続いた。

クラスの、たった30人に認められただけだった。
先生は、おせじで言ったのかもしれない。
今読んだら、ひどい出来かもしれない。
それでも、死ぬほど嬉しくて
その日から、作文を書くのが大好きになった。
何かを作るのが、大好きになった。

この日があったから、今の俺がいるのだと思う。
文字通り、人生を変えた幼き日であった。
あの先生、今はなにをしてるのかな。
nkyです。
このノートは、残念なことに紛失してしまった。
今でもたまに、読み返したいなと思う。
あの日、あの宿題が出なかったとしたら、
俺は今、なにをしているのだろう。
Commented by ryu at 2010-04-09 02:34 x
nky先生の才能の片鱗はそんな時から!オチがいいですね。小3とは思えぬ…。大した奴だ。

僕は中3ぐらいまで作文嫌いでしたねー。文系のくせに。
自ら日記を書いちゃってる今が信じられない。
Commented by nakayu1105 at 2010-04-10 21:24
このオチは、たぶん「ラピュタ」が元ねたです。
めちゃくちゃ好きだったので…。

りゅうさんの日記は、
文章の枠組みをこえた
なにか独自のジャンルのものだと思っています。
by nakayu1105 | 2010-04-06 22:30 | Comments(2)

日頃あったことだとか、ゲームの感想だとか、そういうものを積み重ねていくブログです。 書いてる人/nky(ナカユウ・んきゅ)


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