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悲しみよこんにちは

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「悲しみよこんにちは」 
フランソワーズ・サガン著 朝吹登水子訳


サガンの処女作にして代表作でもある「悲しみよこんにちわ」。
少女セシルは女たらしの父レエモンとその愛人エルザの三人で
海岸沿いの別荘に行き、自由気ままな夏を過ごす。
しかし突如として現れた、
セシルの亡き母親の友人アンヌ。
彼女の来訪に戦慄する三人だったが、
父は次第にアンヌの魅力にひかれてゆき、
ついには彼女との結婚を決意してしまう。
容姿、内面共にあまりに完璧なアンヌに
ふとした反発心と不安を覚えたセシルは、
自分の恋人シリルと別荘を出ていったエルザをけしかけ、
アンヌとレエモンを別れさせようと画策する。

話の半分以上を書いてしまったが、心配はいらない。
文庫本の裏にはオチまでがしっかりと書いてある。
なぜこんなことが許されるのか? 
それは、この作品について特筆すべき点、
もしくは楽しむべき点が、
物語の内容そのものとは別のところにあるからだ。

この物語は、終始セシルの一人称視点で進んでいく。
何がスゴいって、彼女がときおり見せる精神の揺らぎの描き方だ。
彼女はふとした瞬間に残酷になり、
肉欲への好奇心を押さえられなくなり、
激情にかられ、そして大きく悲しむ。
これは十代特有のものだと解説には書かれているが、
今の時代では二十代の人間でも十分に共感できるものだと思う。
セシルには多少、情緒不安定のきらいがあるが。

こんなえげつない話を書いたサガンは、
当時十九歳。彼女についてはきっとこの年でなければ、
どんなに才能が恵まれていてもこの作品を書けなかったろう。
そういう意味で、奇跡みたいな小説である。

でも、正直な感想を言えば、
最後まで被害者ヅラをしているセシルにはドン引きした。
お前が「悲しみよこんにちは」してしまった元凶は、
ほかでもない自分ではないか。
青春なんて、そんなものか。
それでも、間接的に人を殺しておいてこれはないと思うぜ。

日本では発刊当時に翻訳された朝吹登水子版が有名だが、
ちょっと前に別の人が翻訳したそうだ。
さすがに当時の翻訳文章の流れは時代遅れだったので、
読む場合は新約版をおすすめする。
by nakayu1105 | 2012-06-26 01:14 | | Comments(0)

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